南の猫の新西蘭雑記

日本も結構好きなのですが、根っこがこっちに深いです。

火星SF 其の壱 「火星年代記」

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

夜空に赤く光る惑星、火星。探査も進み、写真が次々を送られ、謎はますます深まるばかり。月のウサギが撲滅されて以来、と、言う訳ではないですが、火星も作家の創作心をそそります。


SF叙情詩人と呼ばれるレイ・ブラッドベリの「火星年代記」。オムニバス形式で、美しい短編が積み重なって、植民の始まった、火星と地球の歴史が綴られます。火星人の絶滅の謎、時を超えた火星人と地球人との交流、植民者の家族のホームシックの解決策を考える父親。


地球上では、核戦争が起こり、植民者のほとんどが地球に戻ります。火星に残された最後の一人ではないかと絶望していた男が、ある日電話で美しい女の声を聞いたら。地球の人の途絶えた荒れ野に立つ一軒家。すべて自動化したこの家は、誇り高く自分を守っていましたが、ある日戻って来た飼い犬を認めて中に入れます。哀れな犬の顛末には、背筋がぞっとしてしまいます。自動掃除鼠は欲しいですけど。


淡々と綴られる、各々の人の思いが、最後の一編に繋がっていきます。静かな、哀愁を秘めた最終話まで、ブラッドベリの華麗な文章をじっくり味わいながら、読み込める一冊です。