南の猫の新西蘭雑記

日本も結構好きなのですが、根っこがこっちに深いです。

火星SF 其の弐 「赤い惑星への航海 (ハヤカワ文庫SF)」


60年代SFから、いきなり90年に飛びます。作者、テリー・ビッスンは追いかけて読んではいませんが、不思議な味のするお話を書きます。


赤い惑星への航海 (ハヤカワ文庫SF)」(表紙が?ですね、何で?)この火星物語は、いわゆるパロディーもの。ずっこけながら読んで下さい。火星に一番乗りするのは、アメリカでもロシアでもなく(両国とも、予算がなくて、宇宙開発どころではない。)、何と、ハリウッド映画界。NASAから買い上げた宇宙船の名は、メアリーポピンズ。不況で首をきられ、地上で細々と生計をたてている昔はぴか一の宇宙要員たちを集め、監督と主演男優、主演女優を乗り込ませ、いざ、出発。もちろん、お決まりの密航者が出てきます。出発の際の、てんやわんやに始まって、宇宙旅行も映画界も地上のビジネス界もおちょくったコメディーもの。こんな映画の撮り方、あり??と当時は思ってましたが、CGが普及して、思いっきりその方角に向かってますね。ドタバタに振り回される登場人物たちの達観ともいえる覚めた、それでも真剣な態度。一応、ミッション成功。無事、映画封切り。でも、その影には、と、いうほろ苦いエンディング。頭から、わはは、と笑えない、ちょっと胸打つパロディーです。


テリー・ビッスンの話は本当に不思議です。何とも素朴な淡々とした文章で、いつの間にか、日常からちょっとだけずれた独特の世界に迷い込んでしまいます。初めて読んだのが、男が姪(だったかな?)に会いたいと思ったら、イギリスが海を縦断して、アメリカに接近していく短編。小松左京の「日本沈没〈上〉 (光文社文庫)」も、筒井康隆の「日本以外全部沈没―自選短篇集〈3〉パロディ篇 (徳間文庫)」もすごかったけど、これもうなりました。まさに、sense of wonder。これだから、SFはやめられません。


所変われば、品変わる。作者変われば、星変わる。いろいろな火星を、宇宙旅行を、この白黒の記号の世界で楽しめるのも、一種のsense of wonderです。