南の猫の新西蘭雑記

日本も結構好きなのですが、根っこがこっちに深いです。

ハイペリオンの没落 大傑作長編シリーズの第二部

ハイペリオンの没落〈上〉 (ハヤカワ文庫SF) ハイペリオンの没落〈下〉 (ハヤカワ文庫SF) The Fall of Hyperion (Hyperion Cantos)

前作「ハイペリオン」で、それぞれのハイペリオンの因縁が明らかになった登場人物。この六人と一人の赤ちゃん、それぞれの思惑、願いを胸に、いよいよ<時間の墓標>に踏み込みます。


最初のシーンはパーティー。それも、この一大連邦を束ねる司政庁主催の大バーティー。この世界の移動方法の一つは、転位ゲート。ほいとまたいで入る小さな一人用のゲートから、惑星の近くに設置する宇宙船が通り抜けられる巨大なゲートまで、様々あります。圧巻がテテュス河。各惑星を結ぶ転位ゲートで繋がって、悠々と流れます。優雅なヨットで河下りをしながら、ゲートをくぐる度に、違う惑星の光景を楽しむ訳です。当然、河の流域は高級住宅街。連邦の司政庁も、河畔に構えられています。この河港に続々と到着する多種多様の河船から降り立つ、千差万別の装いの招待客たち。


この一編の語り手、新たな登場人物、ジョセフ・セヴァーンもご招待を受け、徒歩で転位ゲートをくぐり、司政庁の美しい庭に降り立ちます。この人物がまた、ややこしい。<コア>というAIの集団に作られたサイブリッド。サイボーグとハイブリッド(雑種)の兼ね合わせ?遺伝的には全く人間の身体に、意識が<コア>の一部。この世界の人間は携帯通信記録端末インプラント(映画「マトリックス」の無線版)で<コア>の管理するデータスフィアなるものにアクセスできますが、サイブリッドはもともと意識がそこから派遣されて、人間の身体をリモコン操縦しています。


このハイテク人間が、ハイペリオンの出来事を夢で見ます。物語は、彼の夢と実際の周りの出来事を取り混ぜて進みます。どこもかしこも戦乱。ハイペリオン上では、いよいよ伝説の殺人鬼<シュライク>(本の表紙のとげとげ怪人)が<時間の墓標>から出没し、<シュライク>に願いをかなえてもらうためにここまでたどりついた六人が、それぞれ、恐ろしい対峙をします。連邦軍艦と放逐者船団の爆発が宇宙空間を染め、不安な群衆は煽り立てられ、あちこちで恐慌を起こします。夢と現実の狭間で、<コア>と連邦の思惑に翻弄されるジョセフ・セヴァーン。


<時間の墓標>ですから、当然、時間が絡んできます。時を超えて、現れる敵と味方。痛切な別れと思いもかけない再会。結局、最後に物をいうのは勇気と愛、と、臭い言葉を使わずに、一気に華麗にこの長編は読ませてくれます。一応、ここで終わっても不自然ではない(?)のですが、続きます。