南の猫の新西蘭雑記

日本も結構好きなのですが、根っこがこっちに深いです。

「レッドマーズ」「グリーンマーズ」「ブルーマーズ*1」ハード火星SFの最高峰三部作、とおまけの短編集「火星人達(仮題)」

Red Mars (Mars Trilogy)

Red Mars (Mars Trilogy)

レッド・マーズ〈上〉 (創元SF文庫)レッド・マーズ〈下〉 (創元SF文庫)
Green Mars

Green Mars

グリーン・マーズ〈上〉 (創元SF文庫)グリーン・マーズ〈下〉 (創元SF文庫)
Blue Mars: Blue Mars Mars Trilogy Bk. 3

Blue Mars: Blue Mars Mars Trilogy Bk. 3

しっかり一巻ずつ書き込もうと意気込んでいたのですが、もう全部まとめていってしまいます。火星移民者のバイブルになるだろう、なんて、レビューもありました。そうなる事も信じられます。最初の船から、人類が普通に生活するようになるまで、火星と地球との様子が丁寧にしっかり書かれています。

最初の船に乗り込んでいるのは、百人の選りすぐりの科学者達。頭脳明晰ではありますが、当然一癖も二癖もある連中で、火星途上からもう、喧々囂々。人間ドラマの最高峰は、アルファフィーメイルと呼んでさしつかえないようなロシア美女の科学者にして政治家、マヤ。一足先に火星に探査機で行った事のあるベテラン宇宙飛行士ジョン(人好きのするハンサムさん)と政治の駆け引きに関しては誰にも負けない有能交渉家フランク(むっつりだんまりおこりんぼ)の、二人のリーダー格男性との三角関係。まあ、よく振り回してくれます、マヤ様。彼女の対人関係混乱振りは三巻に渡って、楽しめます。自然保護派の頭角アンと惑星改造推進派頭領サックスの議論振りとか、植物学者ヒロコ(日本人です)の奇抜な巫女ぶりとか、精神分析医のマイケルの錯乱振りとか、人間模様だけでも、もう大変。その中で、ほっとする唯一の健全な人間(あくまで私見です)が実質的な建築家のナディア。彼女がジャズをボリューム一杯にヘルメットの中で響かせながら、最初の居住地区建設の為に、かけずり回る章は、別の意味でどきどきしてしまいます。異なる主義主張教義を越えて誰からも信頼され当てにされるお袋タイプのナディアは、最後には火星人全員から頼りにされる存在となります。

そうこういいながらも、何とか火星改革は進みます。人はドーム内に住みながら、外の気温を上げ、バクテリアをばらまき、植物を育て、空気を作り、クレーターまで水を引いて海を作ります。重力エレベーターができると、移民が進み、百人でも危なかった人間関係がどんどん複雑になり、地球との利害関係もこんがらがって、ついに革命。と、言う風に、技術面、経済面、感情面、ついでに所々に独自の火星の神話までちりばめて、万華鏡でも覗いているように、収縮したり、拡散したりしながら、火星だけでなく、地球の一進一退振りをきっちり組み上げて読ませてくれます。

赤、緑、青と火星が変わった所で、このシリーズは一応終わってしまいます。ウーム、残念と、思うファンの為に、もう少しだけおまけが出ました。

The Martians (Mars Trilogy)

The Martians (Mars Trilogy)

「火星人達*1
三巻のシリーズの所々におさまるエピソードと、最後の紫の火星の話。手押し芝刈り機で庭を往復しながら、思案にふける火星人。文句なしに、今世紀最高の火星SFシリーズです。

参考サイト(すべて英語版です):作者キム・スタンリー・ロビンスンの公式サイトウィキペディア 火星三部作「レッドマーズ」(クレムゾン大学スパークス博士SF講座)赤、緑、青の火星サイト
皆さん、研究熱心です。

*1:私的な仮題です