南の猫の新西蘭雑記

日本も結構好きなのですが、根っこがこっちに深いです。

 抗生物質

せんだっての風邪は頭にきました。怒っているのではありません(念のため)。ひどい頭痛で思わず「髄膜炎」とか「蜘蛛膜下出血」とか検索したりして。同時に攻撃されたのが鼻。一ヶ月分のティッシュペーパーが一週間で消えました。ようやく、治まったら次は歯痛。体調玉突き事故。風邪は自力で頑張れますが、歯はお手上げ。歯医者さんに直行。奥歯が痛いのですと訴えると、風邪の具合を聞かれました。もともと慢性副鼻腔炎(早い話が蓄膿症ですね)の気があるので、ちょっと調子が悪いと鼻が詰まったりします。と、言うと、きっと鼻炎から来る歯の痛みだからまず感染をとりのぞきましょうと抗生物質を処方してくれました。歯医者さんが鼻の薬をくれるとは知りませんでした。治まらないと治療もしてもらえないので(ついでに違う所で小さな虫歯も発見、あーあ)しぶしぶ服用してます。こちらの薬はきついんです。大人だとどのくらいの体重を基準にしているのだか知りませんが(聞いとかないと駄目ですね)、見上げるような大男と同じ分量じゃ、小学生にまぎれこめるような私には効きすぎるのは日の目を見るより明らか。吐き気が、腹痛が、と、気分が悪いので検索してみました。ちょうどタイミングよくあがっていたのがこの記事。

The bacterium is known for its role in breaking down otherwise indigestible plant matter, providing up to 15 percent of its host's calories. But Gordon's team has identified a suite of other, more surprising skills. Three years ago, they sequenced B. theta's entire genome, which enabled them to work with a gene chip that detects what proteins are being made at any given time. By tracking changes in the activity of these genes, the team has shown that B. theta helps guide the normal development and functioning of the intestines―including the growth of blood vessels, the proper turnover of epithelial cells, and the marshaling of components of the immune system needed to keep less well behaved bacteria at bay. B. theta also exerts hormonelike, long-range effects that may help the host weather times when food is scarce and ensure the bacterium's own survival.

このBシータ(Bシータイオータオミクロンの略称)バクテリアは、このバクテリアなしでは消化できない植物繊維を分解し、宿主に必要なカロリーを最大で15パーセントも補給しうる事で知られている。しかしゴードン*1のチームは、さらに驚異的なこのバクテリアの特技を明らかにした。三年前、このチームはBシータの全ゲノムシークエンス解析に成功した。これにより、どんな時にどのタンパク質が生成されるか、遺伝子の一片から探知する事が可能となった。この遺伝子の活動変化を追う事によって、腸の正常な発達と活動をBシータが補助指導している事を証明できた。血管の発育、細胞上皮の正常な代謝交換、あまり歓迎できないバクテリアをよせつけないように免疫システムに必要な構成要素を整理整頓する事などが活動に含まれている。さらに、Bシータはホルモンのような長期効果のある成分を出す事もわかった。この成分は、バクテリア自身の生存保証のため、宿主が食物が不足がちな時期を切り抜けやすくする効果があるかもしれないと言う事だ。

こういう善玉バクテリア抗生物質など服用すると減ってしまうんでしょうね。

Salyers*2 says her research shows that decades of antibiotic use have bred a frightening degree of drug resistance into our intestinal flora. The resistance is harmless as long as the bacteria remain confined to their normal habitat. But it can prove deadly when those bacteria contaminate an open wound or cause an infection after surgery.
何十年にも渡る抗生物質使用の結果、腸内細菌相の抗生物質耐性は危険なまでに高まっているとサルヤーズの研究は示す。バクテリアが通常の生息地に留まっている際にはこの耐性は無害だ。しかし、このバクテリアが外傷を汚染したり、手術の後の感染源になったりすると、致命的となる。

善玉、転じて、悪玉の素質を秘めた時限爆弾。

As drug-resistant genes become common in bacteria in the gut, they are more likely to pass on their information to truly dangerous bugs that only move periodically through our bodies, says Salyers. Even distantly related bacteria can swap genes with one another using a variety of techniques, from direct cell-to-cell transfer, called conjugation, to transformation, in which a bacterium releases snippets of DNA that other bacteria pick up and use.

「内臓内バクテリアに薬物耐性の高い遺伝子が一般化すると、次は体内をたまに通過する本当に危険な病原菌にその情報を与える可能性が出て来る」と、サルヤーズは語る。遠縁のバクテリア同士でもお互いの遺伝子交換は可能だ。接合と呼ばれる細胞から細胞への直接転移や、あるバクテリアが放出した遺伝子の断片を他のバクテリアが拾い上げて使用する形質転換などという、様々な方法がある。

"Viewed in this way, the human colon is the bacterial equivalent of eBay," says Salyers. "Instead of creating a new gene the hard way―through mutation and natural selection―you can just stop by and obtain a resistance gene that has been created by some other bacterium."

「こうして見ると、バクテリアにとってイーベイ*3に当たるのが人間の結腸だ。」と、サルヤーズは続ける。「進化や淘汰を通して、苦労して新しい遺伝子を一から作り上げなくても、ちょっと立ち寄っただけで、他のバクテリアが作った耐性遺伝子を身につける事ができるのだから。」

抗生物質は致命的か?(ディスカバリー紙 十一月号)より抜粋。(訳 南の猫)

ですので、自分の身体がバクテリアの薬物耐性遺伝子マーケットとならないよう、抗生物質の使用はできるだけ控えた方がよさそうです。これは個人で気をつけるだけでは無駄です。一度体外に放出された(方法はご想像に任せます)バクテリアは次なる宿主を捜して必死に移動を開始します。最近、密かに勢力を盛り返している、昔はおさまっていた病気の数々はこうした薬物耐性遺伝子を備えたバクテリアの仕業だそうです。結局、病気に至る前に食い止めるのが最前の策という、昔からわかっていた事を実践するしかありませんね。早寝早起き、腹八分目。運動もしなきゃ。風邪に負けない身体作り、と。早く、鼻がすっきりしないかな。

*1:Jeffrey Gordon, a gastroenterologist turned full-time microbiologist, heads the spanking new Center for Genomic Studies at Washington University in Saint Louis., ジェフリー・ゴードン、胃腸科医師転じて微生物学者、セントルイスにあるワシントン大学できたてほやほやの新ゲノム研究所を率いる

*2:Microbiologist Abigail Salyers at the University of Illinois at Urbana-Champaign、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の微生物学アビゲイル・サルヤーズ

*3:eBay, 個人単位の商品売買に使われるインターネット場のマーケット