南の猫の新西蘭雑記

日本も結構好きなのですが、根っこがこっちに深いです。

 陪審員の方々、判決を…… その五

 ずいぶん日にちがあいてしまいました、orz。復習のために、リンクしておきます。

その一
その二
その三
その四

 一ヶ月もかかってますね、^^;。こんなに長くするつもりではなかったのに。気を取り直していきます。ハグリッド先生の前に座りまして……

 まだまだ続く参加者の名簿チェックを眺めているのは退屈なので、持参した本を取り出しました。後ろの方は新聞を広げていまして、それが時々頭にあたりますが、気にしない、気にしない。しばらくアジモフ博士の達筆にのせられて生命の起原がすっかり理解できたつもりになっていたのですが、ハグリッド先生の声で現実の世界に呼び戻されました。
 まず、今回の裁判の罪状と被告人の名前が告げられます。知り合いの場合は陪審員になれませんので、ここでお知らせ下さいとのこと。誰も声を出しません。次にビデオを見ます。これからの流れを説明してくれます。この大部屋一杯の人の中から、選ばれた数十人が、別部屋で、裁判官、弁護士、検察官と対面します。裁判官に名前を呼ばれると、前に出て聖書に手をおいて宣誓します。それから、右手の出口に向かうのですが、ここで被告側の弁護士に検分されます。弁護士が"challenge"と口にしますと、お役目放免。個人的なことではいっさいありませんので、こうなっても気を悪くしないでくださいね、と、釘をさされて、ビデオはすすみます。ビデオの中では、さえない黒めがねのおじさんが"challenge"されて、鑑賞しているこちらからくすくす笑いがもれます。その間に、選ばれた十二人の陪審員が被告側と検察側の言い分を聞き、別室で有罪か無罪かを全員一致で決めます。有罪であれば、裁判官が刑を決めます。そして、おつかれさま、これで一件落着、と、ビデオ終了。
 皆がビデオを見ている間に、かわいいお兄さんはあらかじめ印刷されていた名刺大のカードを忙しく切り離しています。名簿を見比べて、欠席の人の名前はゴミ箱行き。こうしている間に、堂々と遅刻して来たご仁、三名ほど。お兄さんはにこやかに名簿をチェックし、ゴミ箱から捨てられた名前カードを拾いだします。おつかれさま。ビデオが終わっても、まだ名前カードの切り離しは終わっていません。人のよいおばさんのお手伝いの申し出をにこやかに断って、ひたすら名簿とカードの名前を置い続けるお兄さん。
 何もしていないハグリッド先生なので、ちょっと質問してみました。
"Excuse me? If we don't get chosen today, do we need to come back tomorrow?"
(すみません。今日選ばれなかった場合、明日も来なければいけませんか?)
"No, you don't have to. We have only two cases this week. So, if you don't get your name called today, that's the end of your service. You don't have to come back tomorrow."
(いいえ、結構です。今週は二件しかありません。今日名前が呼ばれなければ、それでおしまいです。明日、来ていただく必要はありません。)
 そうこうしているうちにようやく名前カードの用意が整いました。いよいよです、ドキドキ。
"When I call your name, please answer clearly."
(名前を呼ばれたら、はっきり返事をしてください)
 そうですね、いないと思われては大変です。
"If English is not your first language, please let me know. I'd like to ask some questions first."
(もし英語が母国語でない方は、申し出て下さい。少し、質問させていただきます。)
 ギク!
「では、もう一度」と罪状と被告人の名前を読み上げて、知り合いのいないことを確認した後、ハグリッド先生はballot boxと呼ばれる箱に名前カードをおしこみます。投票箱と訳されるballot boxですが、ここの箱は福引きなどで使われるような回転式です。カードを全部いれたハグリッド先生は重々しく鍵をかけて、宣言します。
「ではただいまから、xxxの件の陪審員候補の名前を選抜します。混乱するといけませんので、最初に申し上げておきます。第一のxxxの件は裁判室Aへ、次のyyyの件は裁判室Bへ、この後移動願います。それでは」
 ハグリッド先生は箱の取っ手を持ってぐるぐると回します。ほどよく混ざったところで、鍵を開け、むんずと数枚のカードを引き出します。
"John Smith."
"Yes."
"Peter Brown."
"Here."
"Mary Johns."
"Yes."
がさがさと箱の中をもう一度かきまぜて、又、数枚のカード。返事を確認したあとに、カードが机の前に並べられていきます。全部で三十枚ほど。え〜、まだ〜、と、そろそろ飽きてきたところへ、終了のお言葉。
「さて、今の方は最初のxxxの件をお願いします」
 並べたカードを大切そうにもう一つの箱にしまって、鍵をかけて、また名前カードをがさがさ。また、ドキドキがはじまります。名前が呼ばれ、返事が聞こえ、カードが並んでいきます。隣のおじさんが返事をしました。斜め後ろのおばさんが返事をしました。私は並んだカードを数えます。あと、何人かなぁ。
「さ、これで最後です」
 呼ばれてない人たちの一層強まった注目をあびて、ハグリット先生は最後の名前を呼び上げます。
"Peter Jones (仮名です、念のため)"
"Yes."
 最後の人の嬉し恥ずかしの返事とともに、選ばれなかった人たちが肩の力を抜きます。私は、もう察しがついていつかと思いますが、お役目ご免の側。がやがやと雑音がたちはじめた部屋にむかって、もう一度念をおすハグリット先生。
「間違えないで下さいね。最初に呼んだxxxは裁判室B、次のyyyは裁判室Aですよ」
 ん??
「それは逆ではありませんか?」
 と、言ったのは私ではありません。急いで書類を見直すハグリット先生。
「わっはっは、ほらね、やっぱり混乱したでしょ」
 ハグリット先生の苦笑にくすくす笑いながら、皆席を立ち始めます。グッド・ラックと選ばれた隣の席の人と握手してでていくお役目ご免の人。前の人についてぞろぞろと裁判所をでると、まだ、お陽さまがまぶしい気持ちのいい午前です。正味二時間ほどの、裁判所初体験はこれにて終了となりました。
 とりあえず、心配でしかたのなかった主人に電話をして安心させます。「だから、選ばれる可能性はほとんどないって言ったでしょ」次は子守りさんに定時に迎えに行けますと、報告。
 迎えに行くと子守りさんが、おとうさんの陪審員体験を話してくれました。殺人事件で、ギャング絡みだったので、裁判所への往復には警官の護衛が付き、それでも足りなくなって、最後にはモーテルに缶詰にされたとか。こわ〜。行く前に聞かなくてよかった……こういうこともあるそうです。
 後日、ちゃんと裁判所から小切手が送られ、半日分のお手当をいただきました。なかなか割のいいお仕事です。機会があれば、又、でむきたいものです(爆。