SF三行連続小説 2009年1月から3月までまとめ(第一回目)の続きです。
荒野に白一点のポチは途方にくれています。
花咲か爺さんの夢は居心地よかったのに……
ちょっと風のにおいをかいでみました。
鼻をおそったあまりの異質感に、ポチは思わずあとずさりました。
しっぽをまいて逃げ出したくなりましたが、
どちらを向いても荒野が延々と続くばかり。
耳にはいるのは始終方向の変る風の音だけ。
動くものといえば、風にまいがるほこりのみ。
せわしなく息をしていたポチはのどがからからなのに気がつきました。
おそろしいのをがまんして、もう一度風のにおいをかいでみます。
どんなささいな痕跡ものがさないように、慎重に。
どこかに、何かがあるはず。もとの世界との接点が。
『無機物と有機物がこんがらがったにおいだ。
みごとに絡み合って、もとがたどれない。
嗅げば嗅ぐほどに、自分の身体までねじくれていきそうだ』
ポチは掘っています。
何か懐かしいにおいがするのです。
乾いてひびわれた茶色い大地をひたすら掘ります。
掘りながらも四方の音を聞き逃すまいと、耳はぴくぴくと動きます。
もう何度も途中でさえぎられています。
暴走する変な動物の群れに。
『きた』
足の裏に感じる振動と耳に伝わる微かな音とほとんど同時でした。
風向きが悪いのではっきりと距離はつかめませんが、たしかにこちらに向かってきます。
どどどどどどどどどどどどどっ
土煙のにおいが少し強くなりました。
ポチは爪のぼろぼろになった前足を懸命に動かします。
はげた頭にこつんと何かがあたりました。
浦島太郎はけげんそうに上を見上げました。
雲一つない晴れ渡った青空の一点に、土の塊がまるで破れた布のすきまからおしだされるようにこぼれおちてきます。
見る間に空の裂け目が広がりました。
赤い滴が一滴落ちました。
浦島太郎は、乾き切った大地の埃の上を小さな赤い球体がはずんでいくのが見えたような気がしました。
荒野に紅一点の浦島太郎は途方にくれています。
何が滴り落ちたのかよく見ようとかがんだ途端にどさりと後頭部に何かが墜落しました。
肩にずりおちた生暖かいものをひきずり落ろして息をのみました。
真っ白な毛皮を無惨に血で染めた小さな犬。
眼を硬くつむり、舌をだらりとたらして荒い息をしています。
前足の割れた爪もさることながら、ぐにゃりと力の入らない下半身はあちこち骨がおれているようです。
ごふっと血を吐いて、ポチは意識がもどりました。
『ああ、懐かしいにおいだ。
ようやくたどりついた』