南の猫の新西蘭雑記

日本も結構好きなのですが、根っこがこっちに深いです。

 菊の花束

 勤め先のビルの隣が墓地です。斜面に墓石が並んでますが、その下にほとんど整備されていない、林道と呼ぶにはちょっと木立が寂しい散歩道があります。ゆっくりぐるっと回ると10分くらいかかります。木の根っこがこれでもかとあちこちからせり出していて、上下左右変動が激しく、おまけに落ち葉だらけ、苔だらけ、雨のあとはマッシュルームがにょきにょき。楽しいです。会社がこちらに引っ越ししてから一年ほどになりますが、その間、二本、倒木がありました。これを乗り越えて散歩するのも楽しいです。残念なことに、しばらくすると、時々入る市からの管理人さんたちによって取り払われてしまいますが。
 人出はあまりないのですが、それでもたまにすれ違う人に会います。ホームレスらしいおじいさんとすれ違った時は、かなりにおいが強烈でしたが、きちんとあいさつしてくれました。かっこいいスポーツマンタイプのおにいさんが、猟犬のようなすらりとした白い子犬を連れて散歩してくるのに出会ったこともあります。この時は、子犬が私を見ていきなり踵を返して元来た道を走り戻っていったので、おにいさんが焦っていました。私ももどるのは面倒くさかったので、後ろからゆっくりとついて行きました。追いついたおにいさんと一緒に立っていた子犬は、私を見るとまた、おどおどとして、頼りない鳴き声をたてます。あなたのサングラスが怖いのかもしれません、と、おにいさんがいうので、愛用の黒丸サングラスをはずしてみました。おにいさんの縁のとがったサングラル(ワンピースのドフラミンゴがかけているサングラスとそっくり)の方がよっぽど怖そうでしたが。私がサングラスをはずしても、子犬のおどおどきょときょとは収まらず、"sorry, see, I'm not scary..."とできるだけ道の端を通って追い越しました。
 先日はうってかわって、カップルが幸せそうにお互いの腕の中でくつろいでいました。微笑ましい光景ですが、道の真ん中で立ちん坊でくつろいでいるので、また、"sorry,”と目を地におとして道の端っこを通って散歩を続けました。そして、今日は何を見つけたかと言いますと、花束です。朝、道がすいていて早めについたので、朝の一周もしていましたが、その時にはありませんでした。昼休みの一周の時に見つけてしまいました。たぶん、彼らが立っていたところを同じ場所。道端の岩の上に広げられたカードの上に可憐な花束が添えられていました。カードにびっしりときれいな手書きのメッセージが書き込まれているのが目に入りました。テキストやソーシャルメディアなどでなんでもリアルタイムのこのご時世に、なんと風まかせ運まかせの意思伝心法でしょう。なんだかいきなり異次元に迷い込んだ気分になりました。どういった経過かは当人たちにしかわかりませんが、どうかカードとお花が無事相手に届いてますように。