南の猫の新西蘭雑記

日本も結構好きなのですが、根っこがこっちに深いです。

 階上の怪人

 これは、個人的なできごとですので、ちょっとカテゴリーからはみでてます。が、昔話の一つとして……

 こちらに来てから*1、結構転々と引っ越しをしてきたのですが、いつもはフラッティングと言って、一軒家を何人かで共同責任で借りるという形でした。一度だけアパート形式の一人暮らしをしたことがあります。二階建てのコンクリートの四角い建物。上と下に四部屋ずつ。私は下のまん中の部屋でした。北側は全部ガラス張りで、陽がさんさんと射しいり、夏は暑すぎ。当時、同居していた寒がりの二匹の猫達でさえ、部屋から脱出しておりました。

 ある日、仕事から帰ってみると、台所の流しふきんが、水浸し。冷蔵庫が壊れたのかと思って、チェックしてみるも異常なし。よくよく見ると、天井から水滴が垂れてきています。即、大家さんに電話報告。こんな事が三回ほどありました。

 このアパートは結構中心街に近かったので、50分ほどてくてくと歩いて通勤していました。愛車は、日中は部屋の前の割当駐車スペースで待機。さて、洪水事件があって、しばらくしてからの事。仕事から帰ってみると、私の部屋の前の地面にいろいろ物が散乱してます。中くらいのスーツケースやら、本やら、服やら。そして、私の隣の部屋の前で、男女二人がひそひそと話してます。

「こんにちは。私、この部屋の者ですけど、何があったんですか」
女性 「私、隣人、初めまして。あなたの上の人が全部投げておとしたのよ」
「え〜、なんで?」
男性 「ぼく、彼女の上の階の者なんだけど、階段に植木鉢をおいていたんだ。彼がそれをけっとばして壊しちゃったから、ちょっと注意したら、怒っちゃったんだ。それで、いきなり、部屋から物を投げ出しはじめたんだ」

 はた迷惑されているのは私だけではなかったようです。階上の男性によると、真夜中、ものすごい音量で音楽をかけるので、閉口していたとのこと。あら〜、私も時々聞こえるわ、と、私の隣人女性。私は聞こえませんけど、時々洪水されてます、と、私。とにかく、気をつけましょうね、と、解散。

 私は部屋から物の散乱状態を観察します。今の所、愛車にあたった形跡はないけれど、あぶなさそう。止めてある車は私の所だけ。皆、もう避難したのかしら?と、いうことで、反対側の一番端の部屋のドアをノックしてみます。すみません、物がふってきて危ないので、ちょっとだけお宅のスペースに車を移動させていただけますか、と、お伺いをたてると、どうぞ、どうぞ、とのこと。でも、どうしたの?と聞かれたので、先ほどの会合の経緯をこれこれしかじかと話しました。うひゃ〜、ちょっとこわいね、と、端部屋住人が言った所で、階上から物音が……お、でてきたぞ、と、端部屋住人はそそくさと自分の部屋に退避します。外に残された私もちょっと不気味なので、避難へ……

「お〜い、あんた、何してるの?」
 お、おそかった、^^;。噂の階上住人と一対一の初対面。バスローブをまとったおじさん、おにいさんかな?
「いえ〜、ちょっと世間話をしていたのですけど、でかける時間になったので……」
「あなた、どこの部屋」
「すぐ下です」(い、いわなきゃよかった……)
「ぼくさ〜、時々、流しの水を流しっぱなしにしちゃうんだけど、大丈夫〜?」
(大丈夫じゃない!)「いいえ、大したことはないですよ」
「そこらへんの物、ぼくのなんだけど、もういらないんだ。欲しかったら、あげるよ」
「いいえ、結構です。足りてます」
「そこの下着なんて、まだ、新しいんだよ」
(いるか!)「いえ〜、本当に結構ですよ」
「このナイフは?」と、いきなり手に表れるは
出刃包丁。
「よく、切れるんだよ」と、切っ先を私の方に向けてゆらゆらと揺らします。
「いいえ〜、包丁も間に合ってます」(^^;;;;;)
「あなた、きれいな目をしているね〜」
 ゆらゆらゆ〜ら。目が合ってしまいます。
「なんて、きれいな目なんだ」包丁がこちらを向いて、ゆらゆらゆ〜ら。
「どうもありがとう。じゃ、私でかけなければなりませんので、失礼」

 包丁がいつおちてくるかと、どきどきしながら、部屋のドアまでてくてく。走ってはいけない、走りたい!走ってはいけない、走りたい!一応、普通の歩調で歩けたと思います。どうにか部屋に入り、鍵をかけてしまいました。上のドアがしまった音がしたので、えいやっと出て、そそくさと車に飛び乗り、一目散にジムへと走りました。帰ってみると、一応、物は片付けられ、私の部屋の前で、警察官と大家さんがお話をしていました。結局、かなり精神的に不安定な方で(そちら関係の病院からでたばかりとか)親戚の方に引き取ってもらったとのこと。こうして、ようやく洪水から開放された次第です。でも、こちらで二十年、隣人トラブルはこれ一回きりです。安全な国です、本当は(?)。

*1:日本では、小学校前に両親が建てた家に引っ越して以来、引っ越し経験皆無。